昔々、ある山寺に和尚さんと小坊主が居だったずもな。ある日、和尚さんが里に法事があって出掛けたず。法事も無事終わって、和尚さんはご馳走の折っこを持って山の寺さ向かって山道を来たず。帰る途中には坂があって、登り切った平らな所で和尚さんはいつも一休みするのだず。法事では酒こもご馳走になっているので、つい眠ってしまう事もあるのだず。そんな時には必ずもらって来たご馳走は狐に盗られでなくなっているのだず。それでも和尚さんは寺に帰ってくると「やれやれ今日も狐の姉様に皆食われてしまった」と、別に口惜しがることもなく、けろっとしているのだず。
したども、その度に口惜しいのは小坊主で、満足に法事のご馳走を食った事がながったのだず。いっつも「ご馳走を食いたい。食いたい。狐をやっつける方法はながべが」と考えでいだず。そして、とうとう小坊主は良い策を考えたずもな。いつでも出来るように準備しておいだず。
さてさて、ある日和尚さんが里の法事に呼ばれたずもな。小坊主は和尚さんの戻る頃より早めに寺を出て、和尚さんの休む坂の上の平らな所まで明りこつけて迎えに行ったず。そしてわざと辺りほどりに聞こえるような大きな声で「和尚さん、和尚さん、約束通り迎えに来ましたえー。夜も遅くて腹も減ってるべすけに夜食のいなり寿司を持ってきました。和尚さん、和尚さん」と叫んだず。
さあ、小坊主の声を聞いて喜んだのは狐だったず。早速和尚さんに化げで出てきたずもな。小坊主は知らねえ振りして「さあさ、和尚さん早く帰りますべ、早くこの中さ入って下せ」って小坊主は大きだ袋ば出したず。和尚さんに化げだ狐は「この袋はなんだ?」って聞いだず。「やあや、和尚さん忘れては困ります。『今日はご馳走になって酔って戻るすけ袋さすぽっとくるんでおぶってけろ』と喋りましたべな。まさか狐が化げだ和尚さんではながすべ?」って云ったず。したら狐は慌てて「うんうん、そんだったな。じゃ約束通り袋こに入るべ」って袋の中さすっぽり入ったず。小坊主は「しめた!」とばかりに「和尚さん、へば途中こぼれ落ちれば怪我するすけに袋の口を縛るすけな」って袋の口をしっかり縛ったず。それから小坊主はやせ馬に背中合わせに狐の袋をもう一度縛りあげだず。そこで初めて袋の中ではだまされたと分かった狐が「おろせ、おろせ」と叫んでいだずども小坊主はやせ馬を背負って、でんぐでんぐと急いで戻ってきたず。
さて、帰ってきた和尚さんは、やせ馬に縛られた狐を憐れに思って縄を解いて逃してやったず。それから小坊主に法事の折り箱を「ほれ土産だ」って渡したずもな。それから小坊主は久しぶりに「ご馳走だ、ご馳走だ」と喜んで食ったず。どっとはれ