七戸や弘前に住むいとこの家へ遊びに行くことが、楽しみでならなかった子ども時代。自分の家とは異なり、部屋の造りも装飾も、子どもなりに興味津々であったことや、毎回の食事の献立も自分の家の食事とは違って見え、食事の時間もとても楽しみでした。
特に七戸の伯母の家は、古くから薬屋を営む古い大きな家でしたので台所の天井も高く、時間と共に磨き上げられた床も黒光りしており、その異空間が幼心にも印象的な思い出が。
いとこの家の台所の流しに立っていた時のことです。後ろから「足を揃えなさい。」という伯父の声が飛んできました。その時は一人で台所で手を洗っていたのですが、少し大きな声だったのでびっくりして慌てて足を揃えた私。叔父は自分の娘の後ろ姿と間違えて、娘に言ったつもりだったようですが、私にとっては大人になった今でもよく覚えている出来事で、流しの前に立つと必ず足を閉じて洗い物をするようになったのもこの出来事があったから…。当時はその意味がわからず、今だからこそ理解できますが、台所に立つ時も立ち姿美しくと伯父が教えてくれたのだと。
流しで思い出すのは「流しを使い終わったら、きちんと拭きなさい。」という祖母の声も。流しで洗い物を終えた後、台布巾できちんと拭かないと祖母からたびたび叱られたことを今でも思い出すのです。散らかった水滴を拭うとピカピカして気持ちがよいものだと、これも幼心に体験を通して得たこと。
台所の流しをめぐる伯父の言葉と祖母の言葉は、些細な生活の一コマと結びつくだけではなく、私の人生においてとても大事な言葉となっています。足を揃えたり、流しの水を拭き取ったりと、台所で覚えたことは美しいという姿だったり、形だったり、躾ってやっぱり身を美しくすることなんだよな~と真面目に思うジュンコ先生。
台所は料理を作る場所だけではなく、人間が一人の人として成長していくために、身体を作り、心を作り、所作を磨
くところなのだと思うのです。
そんなことを考えながら園の子どもたちのおままごとの様子を見ていると「ここがキッチンだよ、園長先生~ジュースどうぞ!」と子どもたちの元気な声が。「あぁ…キッチンか…」台所の精神だけは伝えていかなければ。
ここしばらく料理屋さんのカウンターに座り、板前さんやシェフの美しい仕事ぶりを見ながら食する機会もなかっただけに、なんだか無性に出かけたくなったジュンコ先生。料理人の手にかかり、魔法のごとく変化していくごちそうに心躍るカウンター。食欲の秋だ!ウエルと共に!
– 書き手- 千葉幼稚園 園長 岡本 潤子